後から聞いた話、わたしはこのマリア様助産婦に何度も何度も「この痛みを、取りのぞいてください。」とお願いしていたらしい。
不思議とこの部分はわたし自身、さっぱり覚えていないのだ。そうしてその度、マリア様に「ごめんねぇ、そればっかりは取り除いてあげられないのよ」と腰をさすってもらいながらなだめられていた。この台詞は何となく覚えている。
きっとこれまで何百人もの妊婦にお願いされてきたのだろう。
それにしても「この痛みを、取りのぞいてください」って。
懺悔か。懺悔中の罪人か。
しかし「何かに祈らずにおられない痛み」というのは確かだ。
今まで経験したどんな痛みも比べものにならないくらい、強い。
いっその事、気を失ってしまえれば楽なのに痛みがキツ過ぎて気を失うことはおろか、目を閉じることすら出来ない。世の母親が全員これを経験してるっていうのは脅威だ!と思った。母はすごいよ!
さきほどの亀のモーラ(母)だって3度も経験してる!絶句!!!
とにかくわたしのお産はマリア様助産婦との完全共同作業、といった感じで着実に進んでいった。深夜だったから人手が足りなかったのかな?
でも気分的にそのほうが断然落ち着いた。
自分の髪の毛やベッドの手すりを力まかせに掴んだり叫んだりしている最中「あたまが見えたよ!」という声が遠のく意識の片隅で聞こえた。
ここで、ポキンとくじけそうになっていた心に俄然やる気が湧いてきた。
もうだすしかない!
気がつけば担当医と助手と思われる女性が側についていた。
もしやクライマックス!?
渾身のイキみで何かおおきいものがズルリと出る感覚!
これはきた!ついにきた!!
担当医が時計を見て、今しがた出てきた子とわたしを交互に見てにっこりと「午前6時46分、おめでとうございます。元気な男の子です。」
霧がかったようにぼんやりとした視界の中、わたしはただただ呆然とおお、よくドラマで聞くこの台詞がついに自分に向けられるとは・・・
などと、ものすごい達成感と脱力感に全身見舞われながら考えつつ「ありがとぅございますぅ」と、言った。
そして赤ん坊がンギャー!と言った。