自由の風が吹きまくり
前編はこちら。
「こ、これまで体験してきた塾とはまるでちがう・・・!」
具体的に何が違うのか、説明したいと思う。
まず「教室」。
そこは塾。というより、大学のラウンジのような開放的な雰囲気。
絨毯の床に大きめの丸テーブルが6台ほど並んでおり、丸椅子が数脚、各テーブルをぐるりと取り囲んでいる。
後方には大きな本棚がずらりと並んでいて、そこには漫画や本がいっぱい。
『137億年の歴史』、科学雑誌『ニュートン』、歴史漫画、ブラックジャック、キングダム・・・
背のタイトルを見るだけでも(ああ、これは息子好みだな)というのがわかる。
塾長の宝槻さんの著書、強烈な親父が高校も塾も通わせずに3人の息子を京大に放り込んだ話。なんかも並んでいる。
そして「匂い」。
扉をあけた途端、鼻に飛び込んできたのは、お菓子やマックの匂い。
(ま、まぁ遅い時間だから、お腹空くよね、、、授業前にちょっとお腹に入れておきたい感じか。他の塾でも、お弁当持参とかあるもんね?)
そう思った。
しかしその後、授業が始まってもまだモグモグ食べてる子が・・・いる!?
(※2019年3月現在、教室内での食事は禁止になりました)
次に「子どもたち」。
続々と、塾生たちが部屋に入ってきた。
入るやいなや、椅子に座って漫画や本を読んでいる。
本や漫画を読んでいない子は、談笑したりおもむろにゲームをしていたりする。
どの子も自分の好きなことをしていて、なんだか楽しそう。
誰ひとり、教科書やテキストを開いたりはしていない。
そこにあるのは、ただただ「自由」そして「リラックス」。
(自分が子どもの頃は、塾の授業が始まる前って、憂鬱な気分で宿題のチェックとかしてたっけ。)
そんなことを考えていると、先生がやってきた。
いよいよ授業が始まる・・・!
先生が、ある有名YouTuberにそっくり
そんなリラックスムードの教室内に安心したのか、初めての場所でも気後れすることなく、一番前のテーブルに着いた息子。
しかし、先生が前に立った途端、ちょっと緊張して体がこわばっているのが後ろから見てとれた。
探究では2ヶ月ごとに、1つのテーマを掘り下げて探究していくという。
この日のテーマは、偉人対決シリーズ「トマス・エジソン VS ニコラ・テスラ」。
前方のスクリーンには、大きくエジソンが映し出されている。
傍らにはMacとKeynote。
手元に配られるテキストなどは、特にない。 そして先生が口を開いて、本日2度目のびっくり。
喋り方が、ゲーム実況で大人気のYoutuber●ッキーさんにそっくりなのだ!!
息子も驚いたのか、後方で見学しているわたしの方をすごい勢いでくるっと振り返って(・・・え?本人?!?)みたいな口パクを送ってくる。
わたしもその場で、慌てて【●ッキー 素顔 本名】でググってしまったほどだ。
結果、別人だったのだけれど、大人気YouTuberと間違うほどの滑らかな喋り口、飽きさせない話のテンポ、スクリーンの映像を駆使した、息もつかせない授業の展開。
・・・そんなことが目の前で起きたら、子どもたちはどうなる?
開始5分ほどで、熱狂。
しかも子どもたちが夢中になっているのは、スプラトゥーンでもマイクラでもスマブラでもない。
「エジソンとテスラ」に熱狂しているのだ。
気がつけば、息子も興奮のるつぼの中にいた。
わたしも「子どもの塾の見学に来た親」という立場をすっかり忘れて、深く頷いたり大笑いして、誰よりも楽しもうとしていた。
そして、イキイキと躍動する息子の背中を見て、少し泣いた。
男子の不文律が、目の前で
この日は、子どもだけで6つのテーブルがすべて埋まるほどの大入り満員。
授業中ふと、一番後ろのテーブルについているひとりの男の子が気になった。
前方のテーブルのグループはかなり盛り上がっているのだけれど、少し遅れて来たその男の子は、いまいち授業のノリに付いていけないのか、始終うつむいている。
(飲み会に遅れて来て、みんなの酔いスピードについていけない、みたいな感じかな?)
注意深くその子を見ていると、あることに気がついてしまった。
・・・ゲームをしている。DSで。
うつむいていたのは、ゲームに熱中していたからだ。
画面の中の世界に没頭していて、先生の声はまったく届いていないようだった。
と、そこへひとりの男性が近づいて来た。
各テーブルには、ファシリテーターと呼ばれるスタッフの人たちがひとりずつ付いている。
(これは、さすがに怒られるだろうな)
わたしは、彼が早くゲームをやめるよう心の中で念じた。
ファシリテーターに見つかる前に。早く。はやく。
その念むなしく、男性はゲーム中の彼の目の前までゆっくりやってきた。
明らかに、彼を見ている。
ところが!である。
男性は、彼から目を離し、ニコニコしながら通り過ぎてしまった。
(お、怒らないの!?)
怒られて、ゲームを取り上げられるだろう。と予想していたわたしは、思わず膝から崩れ落ちそうになった。
(ゲーム容認???)
それ許しちゃうと、なんでもOKになっちゃわないか?
わたしはちょっと、不安に思った。
しかし、その5分後。信じられないことが起こる。
授業の中で先生が出した「エジソンのあだ名は?」という問題に対して、子どもたちがボケまくり、大喜利みたいになっていた時のことだ。
先生は、どのボケもびっくりするほど丁寧に拾っている。
理想の、漫才の相方のように。
ゲームをしていた男の子が、ふと顔を上げて、ゲームをパタリと閉じた。
そしておもむろに「はい!はい!はい!」と手を挙げ出した。
彼は指されて、勢いよく答えた。
ゲーム男子「メンロパークの魔術師!」
先生「正〜解〜!」
(・・・答え、合ってるし!)
そこから、彼は他の子と同じように授業に熱中しだした。
その後、ゲームを再開することは一度もなかった。
彼がまだゲームに没頭していた時に、注意してやめさせられていたら、ゲームに対する執着心だけが残ったにちがいない。
子ども自ら「ゲーム<学習」に向かわせるだけの、おもしろい授業をやる自信があるからこそ、ファシリテーターはあそこで注意しなかったんだろう。
わたしは、小学生男子の「ゲーム>衣食住>学習」という不文律がガラガラと崩れる瞬間を、目の前で見たのだった。
おもしろい授業、おそるべし。
「これが、探究学舎か・・・!」
わたしは、生唾をごくりと飲み込んだ。
息子の変化
あれから1年。
体験に行った日の夜に「やる!ここにいく!」と決めた息子。
毎週、夫かわたしが付き添って、三鷹に通い続けている。
その間、いろんなことが分かった。
塾長のやっちゃんこと宝槻泰伸さんは、戦隊モノで言えばレッド。
その他ブルーやイエローなど、様々な得意分野とカラーを持った魅力的な先生たちがいる、ということ。
(最初に見たYouTuberに似た先生は、カラーでいうと多分イエロー)
息子にも、いくつか変化があった。
探究の影響だけではないかもしれないけれど、10歳だった彼に強烈なきっかけを与えたのは確か。
① 何でも自分で調べて、教えてくれるようになった
小さい頃から「〇〇って何?」「〇〇の意味は?」など、わたしたちに聞いてくるのが日課だった息子。
探究で習ってくることは、幕末維新秘話だったり最新のロボット学だったり相対性理論だったり、もうわたしの知識ではまったく追いつかない。
だから、自分で授業内で気になったことは、PCや本で調べて逆にわたしたちに教えてくれるようになった。(早口&滑舌悪い、に「難解な内容」が加わって聞く方も大変だけど)
②読む本が変わった
これまでは、歴史漫画(日本の歴史全15巻セット)を何度もひたすら繰り返して読むだけだったのが、より幅広いジャンルの本に手を出すようになった。
たとえば、最近の息子リコメンド本は以下の通り。
どの本も、大人が読んでもおもしろい。
弥生時代で止まっていた、息子の中の「世界」が脈々と動き出したのが、お分かりいただけるだろうか。
漫画から大学受験本まで、セレクトは小5男子の偏り全開でめちゃくちゃではあるけれど。
③アウトプットが面白くなってきた
毎年、悩ましかった夏休みの自由研究のテーマ。
これまではこちらからの「こーいうのはどう?」という提案型だったのが、一昨年からテーマと過程すべてを自分で考えるようになった。
一昨年は「原寸大のリトルボーイを作る」。
去年は「100年前、現在、100年後の世界地図を作る」。
100年後の世界を自分なりに予想しているのが、とてもいいと思った。
④積極的になった(今のところ探究限定)
学校では、これまでの丸4年間、授業中に手を挙げて発言する姿を一度も見たことがなかった。
そんな彼が、探究では手を挙げて発言するようになった。
時には、どうしても先生に指してもらいたくて、席を立って先生の目の前まで行くほど(きっと激しくうっとおしい)。
これは、ひとえにどんなに答えが間違っていても、どんなにボケてもおもしろい回答なら先生が拾ってくれる。という安心感があるからに違いない。
ほとんどは取るに足らないボケだけど、100回に1回ぐらい「お!?」とキラリと光ることを言う。
これから、どんな変化があるかはまだわからない。
息子はまだまだ、親から見たら心配なところだらけ。
だけど、この一年で彼のまわりの世界がみるみる広がって、少し呼吸しやすくなったんじゃないかな、と感じている。
新しい知識やアイデアは、きれいな空気と同じ。
新鮮な空気を胸いっぱい吸い込み、身体中すみずみまで行き渡って循環し、また新しい芽を息吹かせる。
子どもはリラックスした良い状態でいると、知識をスポンジみたいにぐんぐん吸い込む。それはもう、無限に。
「どの子も学ぶことが大好きなんだよなぁ、本来は。」
夫とわたしにとっても、そんなことを肌で実感させてもらった1年だった。
もっと勉強して、わたしも新しい芽を息吹かせたい。
子どもと一緒に、知の深淵と広大さに触れたい。
大人だって、まだまだ負けていられないから。
(おわり)
※あくまで、一通塾生の保護者の感想です。