妊娠・出産・育児日記

ダイアログ・イン・ザ・ダーク

2009年5月17日:代表ブログ(2007年10月〜2010年10月)掲載からの転用

代表 平野聡子 / satoko hirano

初の妊娠、出産、育児。約4年間の記録。

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ついに、ダイアログ・イン・ザ・ダークへ行ってきた。

噂通りホントにまっくらやみのエンターテイメント!

知らない人とチームになって自分の手さえも見えない暗闇の中を視覚障害者の方のアテンドで前に進み、90分もの間いろんな体験をするのだがとにかくすべてが新鮮なオドロキの連続だった。
わたしはたまたま女性だけのグループで、入り口で顔を見合わせてはにかみながら自己紹介。「カナエさん」「マリコさん」など全員、下の名前で呼び合うことを決める。
この時点では「え~、そんなイキナリ気やすく呼べな~い」などと心の中では思っていたのだが、暗闇に入った途端どこまでが自分でどこからが他人なのかの区別もつかない程の真暗闇なのでもうこれは呼び合うしかないのだ。
「サトコ、しゃがみます」
「すいません、いま手があたりました」
「あ、それヨウコです」
「エミ、木を見つけました」
手探りと白杖でアクションするたびに自分の名前で報告し合う。
でないと誰がどこにいて何をしているのかも分からないのでキケンなのだ。
目を開けても閉じても同じなんだけど、カッと目を見開いてかすかな情報でも読み取らなくっちゃ!という気持ちになる。研ぎ澄ませ、耳、鼻。皮膚。
「あ、竹だ。」
「水があるよ。触った!」「どこ?」
「もう少し音の方に、2、3歩あるいてみて」
 ここで凄いことが起こった。
比較的人付き合いは奥手なわたしが、出会って5分も経たない人達とタメ語で、時には手をつないで歩いている。普段なら敬語からタメ語へのシフトは半年~1年ぐらいかかるのに!(笑)
そこから親密感はぐっと増し、見えないながらもお互いの声と気配を頼みに前だと思ったほうへ進む。でもそれはいつも間違っていて、アテンドの人に正しいコースへ導いてもらう。このアテンドの人の【まるで見えているかのような】正確さ、温かさ、信頼感がとにかく抜群ですこしでも側に近付きたいような気分にさせる。
それは最初から最後まで変わらなかった。ゆるぎない強さがあった。「バー暗闇」で乾杯し、いろんな話をして、ついに暗闇を出るころには「まだ出たくない!」「ここにいたいの!」という遊園地閉園間際にダダをこねる子供のような気持ちになった。
そのくらい温かくて居心地のいい闇だったのだ。
目を慣らすためにわずかな光が射す薄暗い部屋に通された時、1時間半振りに視界がぶわーっと開けてびっくりした。長い黒からフェードインという感じ。でももっと吃驚したことがあった。
つい先ほどまで暗闇でわたし達を正確に、安全に導いてくれたアテンドから「空いている席を教えてください」と頼まれたのだ。
え?と思った。
そして次の瞬間、ああ、そうだ・・・この人は視覚障害者だったのだ!
と息を飲んだ。不意に立場が逆転したことを悟ってわたしは今までなんということをしてきたのだ。と思った。「今まで」というのはこれまで生きてきた何十年のこと。
すごい体験だった。
また行きたい。また生きたい、と思いました。