人見知りマックスのむすこは、同じ制服のたくさんの子たちに戸惑って、決して顔を上げなかった。
かたい表情でわたしとオットにぎゅっとくっついたまま。お迎えのときは、ガラス戸にベタっとへばりついて、わたしが来るのを今か今かと待っていた。
来る日も来る日も。わたしの姿をみとめると、緊張していた体の力が抜けて急にニコニコするのが、遠くからでもガラス越しによくわかった。
扉が開くと、いちもくさんに走って腕の中に飛び込んできた。制服は頑なに着ようとしなかった。
帽子もかぶらなかった。
すぐに裸足になった。
歌も歌わないし、演技もしなかった。
ひとりで遊んでいた。
ニコニコは緊張の裏返しだった。
鉄棒では、みんなの前でドスンと尻もちをついて、泣いた。体がひときわ大きいから、そんな何もかもが頭ひとつぶん飛び出して目立つったらありゃしない。
困ったなあ。とわたしは思っていた。
間違ったとこに入れちゃったんじゃないか、彼には幼稚園って全然向いてなかったんじゃないかって、胸が締め付けられる思いだった。
ヤキモキしたり、恥ずかしかったり、した。そんな中、ハッとしたことがある。10代のころ。あんなに人と違うことを求めて、人が持ってないもので自分が持ってるものは何だろう、と頭抱えてたあのころ。
飛び出すにはどうしたらいいんだろう、と迷走した日々。そんなわたしが、自分の子には
「みんなと同じようにすること」を求めていたことに気がついて、ビックリした。
自分が安心したいだけだったんだ。
何をそんなに求めていたんだろう。
生まれて、たった3年ちょっとの人に。
いつの日か、できることがひとつずつ増えていった。
ゆっくり過ぎて、パッと見ただけではその細かい変化に気がつかない。地球の自転ばりのペースで、だけど確実に。
ともだちと、先生たちのちからはすごい。
安心できる場所と、いっしょに笑える友だちを自分でみつけていた。
歌も発表も、小さな声でやり遂げるようになった。
友だちも多くはない。
相変わらず鬼はこわい。
お支度ものんびりで、後ろから数えたほうが早い。
だけど、先生や他のお母さんから聞くエピソードはいつもとびきり彼らしい。
「ママのお腹には、ゴハンがはいってるんだよ(注*妊娠中)って教えてくれました」
「焼き芋パーティのおいもを2個おかわりして嬉しそうでした」
「遅れてきた友達を入口まで迎えにいって、抱きしめてました」
「お友達が泣いてたら、そばに座って、なんで泣いてるの?だいじょうぶだよ、って励ましてました」
ドッジボールが上手いとか、大きな声で発表できるとか、リーダーシップがあるとか、そんなクラスのヒーローになれそうなエピソードはびっくりするほど1度もない。ゼロ。
でも、食いしん坊で優しくて、ちょっと笑える。
そんな君が、だいすきです。
いっぱい成長するところを、じっくり見せてくれて、ありがとう。
わたしをいっぱい成長させてくれて、ありがとう。
卒園おめでとう。
この春、卒園・卒業してあらたな門出をむかえる、すべてのみなさん。
おめでとうございます。
光あるまぶしい未来に、たくさんの幸せが訪れますように。
文集に書かれたむすこの将来の夢は、サッカー選手でもケーキ屋さんでもなく
「やまのうえで、やきにくをたべること」。
なんじゃそれ。山賊か。
でも、やっぱり彼らしい。
明日、山でどんなお肉を食べようか。