ミルクジャポンブログ記事

尾道、御調のまるみデパートを訪ねて。〜人生どうする期〜

2015年9月14日:ミルクジャポンブログ(2012年4月〜2016年9月)掲載からの転用

代表 平野聡子 / satoko hirano

ミルクジャポンブログに約4年間の連載。テーマはお出かけ。

 

尾道を訪れるのは、2度目になる。

 

最初に来たのは、16年前。
仲良しの友達とつるんで、インディーズ映画を撮っていた当時のわたしは
「尾道に慰安旅行に来たスナック嬢3人が、『転校生』(1982年/大林宣彦監督)でお馴染みの、あの大階段を転がり落ちたら女子高生に変身する」
というストーリーのミュージカル映画の撮影のため、この地を訪れたのだった。
変なサングラスと、手作りのギンギラギンだけどさり気ない衣装と、若さ、という名の馬鹿さを武器に。
ええと。
突っ込みどころ満載なのは自覚してますが、行数も限られてるんで駆け足で先、行きまーす。(ちなみにこの映画、奇跡かまぐれか水戸市長賞受賞してます。この場を借りて、13年越しの愛とリスペクトを水戸市長に♡)
 そして、2度目の尾道。
その様変わりっぷりに驚きました。

 

「めっちゃオシャレな街になってる…!」

 

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尾道でもアンパンマンをみせろ!とグズっている人。

 

かつては「映画と坂の街」ってことで、シネフィルがニヤニヤしながら寺や商店街の写真撮って聖地巡礼に来る街。っていうイメージ(失礼)だった。

 

それがですよ。いまや、「外国人観光客とサイクリストたちがこぞって訪れる日本のポートランド」って感じ。

 

心なしか、海沿いの風も爽やか〜でシャレオツ〜な感じ。
何があったの!?尾道。。。

 

というのも、駅近にドーン!と構えた、オシャレ過ぎると話題の谷尻誠設計のONOMICHI U2の存在が大きいかもしれませんが。

 

とはいえ、「1円ぽっぽ」と地元っ子に呼ばれるフェリーから、自転車がシャー!と降りてくる光景や町並みなど、昔から変わらないものも、よく見るとちゃんと残っておりました。

 

まるみデパートを訪ねて

さて、舞台はここから車で30分程移動したところ。
御調、と書いて「みつぎ」と読む街です。

 

車窓からビュンビュン飛び込んでくる空気が海の匂いから、グラデーション的に山々の深い緑の匂いに変わっていき、しばらくすると見えてくる、小ぢんまりとした古い街。

そこに「まるみデパート」はあります。

 

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こちらがまるみデパートを運営する、梶高慎輔さんと果代さん。

 

もともとは大正時代に建てられた医院だった建物。
古いだけじゃなく、丁寧に積み重ねられた時間の重みを感じる雰囲気は、思わず

 

「お邪魔します」
と、一礼してから入りたくなる佇まい。

 

調剤室や診察室だったところの、品のある内装やシャンデリア、
当時使われていたレントゲン機器なんかもキレイな状態で置いてあり、センスの良いアンティークな旅館、といったところ。(注※まるみデパートは宿泊施設ではありません。デパートだからネ)

 

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レントゲン機器、超かっこいい!

 

しかし、このデパートを運営する梶高夫妻に聞けば、この状態に持ってくるまでに5年ほどの歳月を費やした、とか。

 

丁寧に積み重ねられた時間の重み

最初は、床が抜けたり、とても住めるものじゃない程ボロボロだったこの医院。
食卓の上には、当時暮らしていた人が食事をしていたかのような痕跡が残っていて、まるで「時間が、そこで突然止まってしまったかのような」状態だったらしい。

 

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少しずつ時間をかけて、自分たちの手で修復し、お金がかかる箇所はお金を調達できるまで待って直したり、コツコツと、愛情を持って「暮らせるように」作り上げた建物だったのだ。

 

入った時に感じた「丁寧に積み重ねられた時間の重み」というのは、この夫妻の努力の時間が5年分、きちんと反映されてるんだなぁ。と納得。

 

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味のあるエントランス。大正時代の扉が迎えてくれます。

 

新鮮なものがすぐそこにある贅沢

やー、それにしても
野菜がおいしい!お肉がおいしい!
甘いトマトやズッキーニはもちろんのこと、1番ビックリしたのは、アヒル肉。

 

シンプルな塩焼きにしたそれは「上質な鴨肉」とまったく同じ味!
臭みも全くない。
味が濃くて、適度な噛みごたえがあって、すごい好みの味でした。
小さい頃にアヒル軍団に追いかけられた事がトラウマになって以降、アヒルにはあまり近寄らないようにして生きてきたけれど、こ、こんなに美味しいなんて衝撃。
衝撃過ぎて、写真撮り忘れる、という痛恨のミスをおかすほどに。

 

近所で「アヒル農法」をしている方がいるらしく、大きくなったアヒルの肉を分けてもらえるそうです。
お野菜も、近所で作った新鮮なものを届けてもらえるそう。

 

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とれたて野菜たち。ズッキーニの花(食べられる)初めて見たよ。

 

この食の豊かさに、頭がクラクラします。
ついつい、スーパーであまり元気のなさそうなお野菜を、まぁまぁな値段で買っている自分の日常と比べてしまう。

 

まるで小さな森のようなお庭

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吸い込まれるように、ハンモックでくつろぐ子どもら。

 

朝ごはんの後は、お庭でハンモック。
庭の奥に小川が流れていて、川遊びができます。(冒頭の写真)
ここは「まるみバックヤード」として不定期で開放されているそう。
まるで小さな森のようなお庭には、ストーブ小屋やブランコベンチなどもあって、子ども大喜び空間となっております。BBQなんかもできるとか。

 

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まるみのマークとグリーンが素敵。

 

自分の育てた天然のものから生まれた化粧品

「自分の育てた天然のもので、化粧品を作ってみたくて」
と、おっしゃるのは、まるみデパート内のナチュラルコスメ店「もち肌化粧品」を運営する奥様の果代さん。

 

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果代さんのルームスプレー。イラストが素朴で可愛い。

 

元美容部員の果代さんは、本当に透き通るようなツルツル美肌の持ち主で、思わず鼻息あらく
「化粧品、何つかってるんですかー!?」と聞きたくなる。
「ジャンクフードとか、一切食べてないですよねー!?」とも聞きたくなる。
(昔は月イチぐらいでマックとか食べたくなったらしいけど、ここに住んで数年で、そういうのは欲しなくなった、とのこと)

 

梶高氏は、もともとこの御調の出身だったが、大学入学を機に上京。
海外のアートコンペティションでグランプリを獲るなど、活躍してきた。
「東京と地方の状況の差に違和感を覚えた」のが、地元に戻るきっかけだったという。

 

「この先、東京で何がしたいんだろう?」
と自問自答の末、御調に戻ってまず始めたのは「まるみデパート」という拠点作り。

 

現在はみつぎさいこう(再考、再興、最高のトリプルミーニング)というグループを作って「地域のフィールドワークとマップ作り」「I&Uターン促進のための空き家活用サポート」などなど、町をもっと!おもしろくするため、精力的に活動している。

 

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カフェで小さいジャイアンに駄菓子を買ってくれ、と脅されているところ。

 

田舎暮らしって、実は結構いそがしい!?

一般的に、「田舎暮らし」ってなんとなく「スローライフ」なイメージではないだろうか。
時間に追われることなく、静かにノンビリ豊かな食を味わう暮らし、、みたいな。
わたしも、そう思ってました。

 

だけど、わたしたちがまるみデパートに滞在して感じたことは
「田舎暮らしって、実は結構いそがしい!?」ということだ。

 

実際に、梶高夫妻の1日は忙しい。
わたしたちが滞在したのが、まるみデパートの営業日(金土日)だったこともあり、朝早く起きて掃除や片付けを終えたら、すぐに開店準備。
その間にも、近所の人がバンバン訪ねてくる。
野菜を持ってきてくれたり、ちょっとした用事だったり、電話や来客が絶えない。
営業が始まったら、果代さんはカフェの切り盛りに、レジ、接客の仕事。
梶高氏はパソコンで仕事をしつつ、買い出しや打ち合わせをこなしている。
そんな間にも、わたしたちを町へ連れ出して市場を案内してくれたり、うちの子達の面倒まで見てくれたり(ほんとスイマセン)と、動く動く!働く働く!

 

都会と田舎の時間の流れ方が違う、と思うのは、あくまで「旅人」として来るからだ。
そこで生活する、ということはそこに根を張る、ということ。
都会以上に、コミュニケーション能力に長けていないと生きていけないだろうし
コツコツと足を使ってネットワークを広げていく、ガマン強さもきっと、必要。

 

まさに、田舎暮らしは「フットワークイズネットワーク(©高城剛)」なのではないだろうか。

 

だけど!
圧倒的に違うのはやっぱり、豊かな自然と、おいしくて安全な食べ物

 

川遊びをして、足の裏や全身から感じる情報量の多さたるや、ゲーム画面のソレとは比べ物にはならないほど刺激的だし、採れたての野菜をかじった時の、新鮮さと旨味はちょっとした中毒になりそうなくらい脳がスパークする。

 

子育てしたり、モノ作りしたりするには、最高の環境なんじゃないかな。

 

梶高夫妻の存在が新しいライフスタイルの提案に

このまるみデパートには、小さな子連れのお母さんだったり、旅行者だったり、近所のおばあちゃんだったり、本当に色々な人がいろんな目的でやって来る。
そして、何かちょっとしたモノを得て、またそれぞれの場所へ帰っていく。

 

デパートというのは本来「百貨店」という意味ではないらしい。
たしかに、ここには「百貨」もの品物は置いていない。
ラインナップは、カフェ、化粧品、絵本、雑貨、Tシャツ、器、駄菓子、地産の食品、パン、などをほんの少しずつ。

 

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だけど訪れる人々は、それ以外のモノもちゃんと受け取って帰っていくように見える。
梶高夫妻の存在そのものが「こんな暮らし方もあるよ〜」という、新しいライフスタイルの提案になっているからだ。
その人となりが、居場所にきっちりと反映されている様は、見ていてとても、清々しい。

 

何を1番に優先して生きてく?という人生の悩みはいつでも尽きない。
「人生どうする期」のわたしとしては、このスンバラシイ環境を前に、心がグラグラ揺れまくるのだった。

 

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わたしと同じく「人生どうする期」のみなさん。
まるみデパートを訪れて、一度ゆっくり自分と向き合う時間を作ってみてはいかがでしょうか。
カフェで、季節のスムージーとまるみどら焼き(絶品!)などを頂きながら。

 

 

それにしても、どこを撮っても絵になる、美しいまるみデパート。
もし、わたしが大富豪だったら、ウェス・アンダーソン監督か冨永昌敬監督(水戸映像祭つながり)か沖田修一監督に、ここを舞台にしたオフ・ビートなコメディ映画を撮ってもらいたいな♡

 

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ライフスタイル探しの旅は続く!